ちあの賊の噂を思ひ出した。さては俺は別荘番の言つた向ひの山へ這入つたのだなと思つてよく考へると確かにさうである。山はU字形になつて居る物だから、あの谷を伝ふ内にこつちへ這入つてしまつたのであつた。して見るとこの中には賊共が居るのだ。さう考へると一条の戦慄が全身を襲つたが、しかし僕は随分胆は太い方であり旦その場合非常に落着いて来た。一つそつと中の様子を見てやらうと思ひ立つた。この縦坑は四五尺で横坑になつて居る。灯はその先からもれるのである。僕はそつと身をしのび入れた。そして横坑へ下りた。身を屈めて灯の方へ這つて行くとこの横坑の先は或大きな室の壁と天井との境に開いて居るのを悟つた。そつと首を出して室内を見下ろさうとした刹那、何者かの太い手が僕にとびついたかと思ふと僕はずる/\と室内へひきずり落された。有無を言はせず僕の身体は二人の恐ろしい相貌の男に縛られてしまつた。そしてその室の左手の戸を開いて次の室へと突きoされた。僕はびつくりした。この室は実に華麗な室で壁は真紅の織物に張られ瓦斯の光晃々として画の様である。中央の椅子に一人の立派な男が坐して居る。男達は僕をその前に引据ゑた。その時僕は顔
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