豊子は子供の様に悦んで自分の眼利きを誇つた。
 或時僕はこの辺り一体の山々の脈状を見て来ようと思ひ立つた。そして早く別荘を出た。『呉々もあつちの山へお這り[#原文のまま。「お這入り」と思われる]なさいますな。』と云ふ老人の声が何となく神秘的に聞こえるのをあとに残して別荘の上の山へと上つて行つた。この辺の山々は人が多く這入らぬので道は殆んど足あとの続きに過ぎぬ。僕は唯一人道を求め求め上つた。夏の晴れた日だから、随分上るのに息が切れて、丁度その山の頂上と思はれる地点に来た時は午後一時時分であつた。しばらく休んでからまた下り始めた。すると、僕は知らぬ間に道を見失つてしまつた。そして非常にわづらはしい雑木林の中へ落つこちてしまつた。仕方なく磁石を頼りにずん/\其中を伝ひ下つた。するとやがて一つの傾斜した谷へ出た。其処で憩つて居る時僕は興味ある事を発見した。それはその渓谷に沿うて一列の石が走つて居る事である。それは決して自然に出来た物ではない。人工で立体に切つた石の列である。そして非常に年代を経た物である、自分は興味に乗り出した。この列石はよく考古学者の問題となる称類に属する物であるからだ。そこ
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