下がありその下には尚無数の手下がある。それ等は此洞穴と同じ様な隠れ場所が七つこの一帯の山脈中のかなたこなたにあるがそれに住んで居るのである。彼等はすべて青鞘の短刀を持つて居る。是は仲間だと云ふ印にもなるのである。彼等ははるか遠方の町々にまで下りて行つて殺人強奪を事として居る、彼等の殺人は強奪の為の手段ではなくして殺人の為の殺人である。是が野宮の恐るべき手段なのである。あゝ僕も実にその夜からこの宗教の信者となり終つた。翌日手下の一人はかの別荘の偵察をしたが別荘では豊子が矢張り野宮一団の手に殺害され僕もそれと同時に何処かへ連れ去られたか殺されたかにして居る。女中は泣く泣く豊子の死体と共に今朝山を下り麓の警察では大騒ぎをして居ると云ふ事をしらせた。それを聞いて僕は当時殆んど平然として居りむしろ鼻で笑つて居た。何と云ふ浅ましい事であつたらう。
 それから以後僕が如何なる所業をして居たかは好奇なる我画家よ、どうか僕を許して呉れ。僕は一々回想する苦痛に耐へないのである。
 風の如く飛び去つてしまふ事が出来た。
 かくして僕は以後五箇月山中にかゝる残忍至らざるなき生活をした。その間で僕は二十三人の男
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