始めたのである。
『何あに、何でもないのさ。唯僕は愉快なんだ。べらばうに。俺が愉快な時にはお前も愉快にしなければ不可ない。』と変に踊りながら庭園を歩いた。然るにその日の午後四時頃になると僕は自分の脊髓が妙に麻痺するのを感じた。そして眠たくなつた。強ひて眼を開けて居ようと思ふがどうしても開いて居られない。遂に寝室へ這入つて寝台の上に打倒れたまゝ昏々と眠つてしまつた。やがてふと夢から覚めた、見廻すとすでにすつかり夜となり横の小卓の上にはラムプが点つて居る。懐中時計を見るともう十一時である。隣の寝台の上には豊子が静な寝息を通はせて眠つて居る。僕ははね起きてしばらくじつと頭を押へて居ると今夜の僕の心は非常に澄み切れる事を感じた。何だか今から庭園を散歩したくなつた。
そこで横に眠れる豊子をゆり起した。『何あに。』と純白の寝衣姿なる豊子は起き上つた。『今から庭をすこし歩いて見よう。』すると是まで決して僕に逆らつた事のなかつた彼女が今夜はどうした物か『妾今夜は止します』と言つてまた横になる。僕は大変腹立たしくなつた。そして『ぢや勝手にしろ。』と言ひ棄てて独りで出掛けようとすると豊子も矢張り起上つて
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