なくぼんやりし直ぐ眠たくなる。その癖発陽性が著しくなり、見る物聞く物皆面白い。嬉しくて手先が独りで躍り出す。頗る突飛な幻想が絶えまなく頭を襲ふ、僕は我知らず大声で唄つたり別荘の周囲を子供の様に馳け廻つたりした。豊子もすこし驚いたが彼女が元来活溌な性質なのでかへつて悦こんだ。僕はまた豊子に対する愛着が激しくなり毎日々々彼女と共に別荘近くを散歩しては花を摘んだり小鳥を撃つたりした。家へ帰ると一所に酒壜を傾けて飲んだ。こゝは高地であるから夏とは言ひながら春の様な気候である。僕はこの快さが無暗に好きになつた。そして目前にある危険がせまりさうなのをよく悟りながらこの山中を去らうとしないのであつた。こゝに一つの不思議なことがあつた。それはそれからと云ふ物僕が殆んど毎夜同じ夢を見る事である。その夢と云ふのは斯うである。僕は一人或山頂に立つて居る、右と左とに大きな谷がある。右の谷底には実に美麗な都会がぴか/\輝いて居る。然るに左の谷底は大きな湖水になつて居る。よく見るとそれは血の湖水だ。また空を仰げば真紅の星が一箇魔女の眸ざしの如く明かに澄み輝いて居るのである。自分は唯ぼんやり腕組してたゝずんで居る。
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