がつた。成績は劣等であつたが何故か数学のみには異常な才能を持つて居り、またそれを好んだ。僕と彼との交際は一年生の時から始まつた。彼は僕に恋し僕を自分の家へ始終いざなつた。そして毎日彼とばかり遊んだ。彼は両親なく独りぽつちで、或寺院の一室を借りて可成り贅沢に暮して居た。僕には決して悪い事を教へなかつたから僕はすこしも彼の悪い感化を受けなかつた。しかし僕の家庭では野宮と遊ぶ事を禁じたが、禁じられる程僕は彼に執着し、遂には病的な強い恋情をさへ起す様になつた。丁度野宮が五年級の始めあたりから彼は催眠術の研究をしきりに遣り始めた。そして僕は常にその相手をさせられた。常時野宮に依つて眠らされる事が異常な快楽であつた。眠れる間何んな事をしたかはすこしも覚えないのであるが、野宮が様々な力法を眠らす為に施す時言ひ知らぬ嬉しさを感じた。そして遂には野宮の一瞥で全然自己意識を失つてしまふ位になつた。野宮の方でも余程この術に巧になつたらしかつた。かくて僕が四年級に上つた春彼はもう学校を出なければならなくなつた。彼は或数学の学校に這入ると言つた。その学校は東京にあり我等の中学は九州の田舎にあるのだから、二人の別
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