ぢをどろ/\と呑み込んだ。蛙蜿はもとより常に食つた。是れ等は飛騨辺りではさう珍らしくもないのである。それから裏庭の泥の中からみゝずや地蟲を引きずり出して食べた。春はまた金や紫や緑の様々の毒々しい色をした劇しい臭気を発する毛蟲いも蟲の奇怪な形が俺の食慾を絶えまなく満たしたのである。唇が毛蟲に刺されて真赤にはれ上つたのを家人に見つけられた事もある。其他あらゆる物を喰つた。そして又中毒した事がなかつた。此奇妙な癖は益々発達しさうに見えたが、母と共に東京へ出て都会生活に馴らされて自然かゝる悪習は止んだ。

 (四)

 然るに丁度十八歳の冬母の死んだ時節は悲哀に耐へなかつた。悲しさ余つて始終泣いて居た。元来虚弱な身体は忽ち劇しい神経衰弱に侵されてしまつた。まるで幽霊の様に衰へてしまつた。そして小さい時の脊椎の病がまた発して来た。俺は此ではならないと思つて二十歳の時丁度在学した中学校を退いて鎌倉へ転地した。かくて鎌倉に居たり七里ケ浜、江の島に居たりして久しく遊んだ。散歩したり海水を浴びたりして暮して居た。その内に身体は段々と変化して行つた。久しく都会の喧騒の中に居た物が俄に美しい海辺に遊ぶ身とな
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