体である。この経歴の陰に以下の恐ろしい生活が転々と附きまとうて居たのであつた。俺は幼少から真に奇妙な子であつた。他の子供の様に決して無邪気でなかつた。始終黙つて独り居る事を好み遊ばうともしなかつた。山の方へ行つてはぼんやりと岩の蔭などに立つて空行く雲を眺めて居た。このロマンチツクな習癖は年と共に段々病的になつて、飛騨を離れる二年ばかり前の年であつた。半年ばかり私は妙な病気に悩んだ。其は背すぢが始終耐らなくかゆくてだるいのである。そして真直に歩く事が出来ず身体が常に前へのめつて居る。血色は悪くなり身体は段々痩せて来た。母は大変に心配して種々な療法を試みたが其内いつしか癒つてしまつた。その病中俺は奇妙な事を覚えてしまつた。其は妙に変つた尋常でない物が食べたいのである。始めは壁土を喰ひたくて耐らぬので人に隠れては壁土を手当り次第に食つた。そのまた味が実に旨い。殊に吾家の土蔵の白壁を好んだ。恐ろしい物で俺が喰つて居る内厚い壁に大きな穴が開いてしまつた。それから俺は人の思ひ及ばぬ様な物をそつと食つて見る事に深い興味を覚えて来た。人嫌ひで通つて居る事がかゝる事柄を行ふのに便利であつた。幾度かなめく
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