間は皆俺の食慾をそゝる。殊に十四五の少年少女が最も旨さうに見えた。何だがさう云ふ子に会ふとすぐ食ひ付いてしまひさうで仕様がなかつた。がどんな方法で食物を引つ張つて来ようか、まづ麻酔薬とハンカチーフをポケツトに用意した。これで睡らしてすぐ引つ張つて来る事にした。
四月二十五日、今から十日ばかり前の事である。俺は田端から上野まで汽車に乗つた。ふと見ると吾膝と突き合はして一人の少年が坐して居る。見ると田舎臭くはあるが、実に美麗な少年である。吾口中は湿つて来た。唾液が溢れて来た。見れば一人旅らしい。やがて汽車は上野に着いた。ステーシヨンを出ると少年は暫らくぼんやりと佇立して居たがやがて上野公園の方へ歩いて行く。そして一つのベンチに腰を掛けるとじつと淋しさうに池の端の灯に映る不忍池の面を見つめた。
見廻はすと辺りには一人の人も居ない。己れはそつとポケツトから麻酔薬の瓶を出してハンカチーフに当てた。ハンカチーフは浸された。少年はぼんやりと池の方を見て居る。いきなり抱き付いてその鼻にハンカチーフを押し当てた。二三度足をばた/\させたが麻薬が利いてわが腕にどたり倒れてしまつた。すぐ石段下まで少年を
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