ぐ棒切を以つて其土まんぢゆうを掘り出した。無暗に掘つた。狂人の様に掘つた。遂には爪で掘つた。小一時間ばかりで吾手は木の様な物に触つた。『棺だ。』土を跳ね除けて棺の蓋を叩き壊はした。そしてマツチをすつて棺中を覗き込んだ。
 その時その刹那ばかり恐ろしい気持のしたことは後にも前にも無かつた。マツチの微光には真青な女の死顔が照らし出された。眼を閉ぢて歯を喰ひ縛つて居る。年は十九許りの若い美しい女だ。髪の毛は黒くて光がある。見ると黒血が首にだく/\と塊まり着いて居る。首は胴からちぎれて居るのだ。手も足もちぎれたまゝで押し込んである。戦慄は総身に伝つた。が此はきつと鉄道自殺をした女を仮埋葬にしたのだらうと解るとすこし戦慄が身を引いた。俺はポケツトからジヤツクナイフを出した。そして女の懐へ手を突つ込んだ。好きな腐敗の悪臭が鼻を撲つ。先づ苦心して乳房を切り取つた。だらだらと濁つた液体が手を滴たり伝つた。それから頬ぺたを少し切り取つた。この行為を終へると俄かに恐ろしくなつて来た。『どうする積りだ、お前は。』と良心の叫ぶのが聞えた。しかし俺はしつかり切り取つた肉片を、ハンカチーフに包んだ。そして棺の蓋を
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