れないが、昔「肉弾」という本を書いた桜井忠温《さくらいただよし》という有名な陸軍少将があった。どうせ少将なら、髭《ひげ》でもヒネッて踏ん反り返ってつまらねえ野郎だろうと思っていたが、何かの本に、
「大砲の弾よりも爆弾よりも私は、雷がオッカナイ」
 と、このヒトが書いているのを見た途端から、私はこの少将に多大の親しみと、尊敬を払わずにはいられなくなった。
 最近では、「魚臭くない魚の話」とかいう本を書いた、東大教授の末広恭雄《すえひろやすお》という博士がある。この人も何かの雑誌に「雷がオッカナイ」ということを率直に告白していた。それを見た途端、やはりこの人にも私は、言わん方ない親愛を感ずるようになった。
 同病相憐れむ、気持の現れかも知れないが、世の中には雷の嫌いな人も、決して尠《すくな》くないであろうと考える。もしそういう人が、私にも親しみと尊敬を懐いてくれたら、有難てえことになるぞ!
 と思ったから、ちょっと人直似《ひとまね》して[#「人直似《ひとまね》して」はママ]、正直ぶってバカばかり並べ立ててみた次第。尊敬してくれんでもいいから、笑わんでおいて欲しい。



底本:「橘外男ワン
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