ャラおやじだが、雷だけは性に合わんのだな! と、子供心にも、憐れんでいてくれる様子である。
ゴロゴロと遠くの方でやり出すと、大丈夫だヨ、大丈夫だヨ、お父さん! 今日はこっちの方角だから、そう大して、鳴らないよ! と、中学二年の末っ子などは、御注進に駈けつけて来てくれる。
「バカバカ、何言ってる、大きな声を出して! そんなことなんぞ、お父さんは心配してるんじゃない!」
と、えらそうな顔をして見せたっておっつかぬ。
「なァンだい、人がせっかく、親切に教えに来てやったのに! さっきから、そんなところに突っ立って、空ばっかり見てるじゃないか!」
と、子供は膨れっ面《つら》をする。困ったオヤジです。いくら体裁をつくったって、子供の方がよく知っとる。
弱将の下、強犬なし
私は、デカという、頗《すこぶ》るもって強豪な中型の秋田犬を飼っている。こいつのオヤジは、昔間違って、狼罠《おおかみわな》にかかってキャンキャン啼《な》き叫んでいたが、誰も助けに来てくれないと知ると、罠にかかった自分の脚を、自分で食い切って、三本脚でビッコ引き引き戻って来たという剛《ごう》のものだけに、このデカの強いことも、また無類である。
どんな大きな犬と噛《か》み合いをやっても、まだ一回たりとも、音《ね》を挙げたためしがない。負けても、相手に食いついたっ切り離れないのだから、抛《うっちゃ》っとけば、命のほどが危ない。こっちが青くなって、必死に引き分けてやるほど、気性の敢為な獰猛《どうもう》極まる奴であるが、このデカ先生もまた、生得、雷様がお嫌いらしく思われる。ピカピカとくると、たちまち犬舎を飛び出して、どっかへ姿を晦《くら》ましてしまう。
夕立ちが済むと、ノコノコと、どこからか現れてきて尻《し》っ尾《ぽ》をふったりジャレついたり、ハシャギ廻るのであるが、どこへ行くのか、初めのうちはなかなかわからなかった。が、最近、やっとわかったのは、このデカ氏はピカピカゴロゴロの間中、光の届かぬ椽《たるき》の下の一番奥の方に身を潜め、息を殺しているわけなのであった。
なるほど、弱将の下[#「弱将の下」に傍点]、勇卒なし[#「勇卒なし」に傍点]とは、よくいったもんだ! としみじみ感じたのであるが、こいつもやはり、雷様のお通りになった後は、爽涼感と蘇生と二重の喜びを、感じるらしい。恐怖の去った後でハ
前へ
次へ
全14ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング