送ってそこで国外追放に処されなければならなくなったというのです。
 慣れぬ他国も同然の日本へ来て、父に引き離されてわたくしたち二人だけ、身も知らぬ澳門なんぞへ追放されてしまったら、一体どうして生きていったら、いいんでしょう? スパセニアはまだ子供でしたけれど……わたくしたち生きた心地もなくて、毎日抱き合って、泣いてばかりいましたの。パパが心配して百方奔走して、日本国籍を取得しようとしましたが、わたくしたちの日本滞在日数が、二年と何カ月ではどうにもならず、毎日のように憲兵隊へ日参して、しまいにはその人が公使館武官でベルグラード在勤中、少しばかりのお世話をした縁故を辿《たど》って西部軍管区司令官の許《もと》まで、頼みにいってやっとのことでここに引っ込んで、――東水の尾の別荘に閉じ籠《こも》って、三里四方へ踏み出しさえしなければ、大眼にみておくという条件で、辛うじて国外追放だけは、免れたというのです。
「それで急に、こんな不便なところへ、越して来てしまいましたの。そうでなければわたくしたち、父と引き離されて澳門へつれて行かれなければならなかったんです。……わたくしたち女中も使っていませんでし
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