と思ったら、また間違えて、昨夜《ゆうべ》は野宿しちまったんです」
 ぼんやりと俯《うつむ》いて歩いていましたから、もう、娘が何を聞いたかを、覚えておりません。歩いていたら、娘がまた、呼んでいるのです。
「そっちへ行くと、違うわよ! ……こっちの方、こっちの方!」
 いうことが飲み込めなくて、立ち停まって顔を眺《なが》めていたら、
「じゃ、家へ寄って、休んでらっしゃるといいわ……パパに、そういいますから」
 娘の家は、その辺から曲るのか、大分離れた草原の中に馬を立てて、こっちを眺めているのです。私もぼんやりと、娘の姿を眺め返していました。あんまり草臥《くたび》れて、ガッカリした時には、急に礼なぞは出てこないのかも知れません。
「わたしの家へお寄りになるんなら、こっちよ」
 そういうわけで私は、碌々《ろくろく》礼もいわずに、この娘の後に跟《つ》いていったのです。

      二

 今度は娘の後からついて行きますと、草むら隠れに小径《こみち》がうねうねと、そのうちに山に囲まれたこんな無人の地帯には珍しい、白砂利の陽《ひ》に燦《きら》めいたまるで都会のような道路へ、出て来ました。
 そして
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