…食事をさせて、休ませてくれるようなところは、ないでしょうか?」
「食事?」
と、娘はびっくりしたように眼を瞠《みは》りました。
「村へ行けば、ないことはありませんけれど……でも、一番近い村だって、三里ぐらいはありますわ」
「三里……? まだ三里も?」
といよいよ私は、途方に暮れました。
「ここは何というところですか?」
「東|水《みず》の尾《お》……水の尾村の東水の尾というところよ……でも、ここは、わたしの家があるだけよ。村のあるところは、もっとずっと向うですわ」
鞭《むち》の指さしているのは、今私の降りて来た躑躅《つつじ》山の、もっとずっと左側の、雑木林の奥の方! ここが一番近くて、それすら三里離れているというのです。そして小浜は、遥《はる》か左手の霞《かす》んだ、海岸線の北の方! この疲れと饑《う》えの足で、まだ六里では私は落胆《がっかり》しました。もう足が意地にも、進まないのです。が、今来た道をその水の尾という村へ戻る気には、どうしてもなれません。
ここから四里ばかり離れて、小浜の町へ行く途中に、大野木という村があると聞いて、私は歩き出しました。その大野木まで行けば、小
前へ
次へ
全199ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング