かの向うに、村らしい家々の屋根が、模糊《もこ》たる夕靄《ゆうもや》の中に点々と眼に入りました。
「あれが水の尾ですか?」
 言葉はなくて、ジーナがかすかにうなずきました。
「ではもう、いいですよ……もうわかりますから……明日は早く訪ねて行きますから、さ、貴方《あなた》がたはもう、お帰りなさい、帰りが大変だから……」
「でも、わたくしたち……この辺は慣れていますから……もう少し行きましょう」
 お帰りなさい、お帰りなさいと口ではいってるくせに、実際は私も別れたくありませんから、また、いつの間にか連れ立ちましたが、別段話とてもなく、それからでも、半道や小一里近くは送って来てくれたかも知れません。山はいよいよ暮れて、もう木の下、足許《あしもと》にはずんずんと黄昏《たそがれ》の色が、濃く漂ってくるのです。やっと私も気が気でなくなって、今度こそ真剣に何度帰るように勧めたか知れません。もうちょっと……もうちょっと……ほんのそこまでと、名残《なごり》惜しそうに送って来てくれるのです。
 ようやく何度目かの勧めで、やっと、では、というように二人が立ちどまった時には、もう小半町先は、ものの弁別《あやめ》
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