》るような暑さです。溝渠《インクライン》はさぞ満々たる水を湛《たた》えて走っていると思いのほか、なんと一滴の水もなく、カラカラに乾き切って混凝土《コンクリート》の底は、灰色の地肌《じはだ》を見せているのです。しかも底には処々黒い土がこびりついて、そこには雑草が生《お》い茂っているのです。ということは、ここ半年にも一年にも、水なぞは一滴も通ったことがないという証拠です。どうしたんだろう? と私は名状し難い不思議な気持に打たれました。
溝渠《インクライン》はまた道から離れて、やがて山の向うに入ってしまいました。そして、車はいよいよ雑草の茂るに任せた、高原地帯へ踏み入って来ました。右手|遥《はる》かに海が咆《ほ》え、やがて断崖《だんがい》の上に張りめぐらした鉄鎖《てっさ》らしいものが眼に入ってきます。
「そうだ! そこを左の方へ曲って……もうちょっと行ったところで……そこだそこだ! そこを右手へ曲って、もう一度左へ行って……」
「この辺にゃ、誰も住んじゃいねえんですかい? ……酷《ひど》く荒れたところですな……こんなところは来たこともないが、旦那《だんな》、こりゃ何方《どなた》かの、地所内
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