けれど、起きられるようになって有難い! 今年こそあの二人にも逢《あ》いに行けるぞ! ということばっかりだったのです。
病気のことばかりクドクド申上げて、先生はおイヤだったかも知れません。もう簡単に切り上げますが、そうして夜となく昼となく思い詰めながら、二度の夏を……一昨年《おととし》と去年と、二度の夏を送ってしまったちょうどその時分から身辺に時々妙なことが起ってきたのです。
四月の新学期からまた学校へ通っていましたが、ある日探したい本があって神保町《じんぼうちょう》の東京堂までいったことがありました。あすこは狭い通りに混《ご》み混《ご》みといつも人が雑踏しているところですが、今店へ入ろうとした途端、呀《あ》っ! と思わず叫びを挙げました。スグ前の人混みを行く五、六人連れの向うに、一人の婦人が! おう! ジーナだ、ジーナだ! ジーナが歩いている! と私は躍り上がりました。どんな服を着ていたか覚えもありませんが、繊細《ほっそり》とした腰といい、縮れた亜麻色《ブロンド》の髪……恰好《かっこう》のいい鼻……口……横顔……ジーナそっくり、いいえそっくりといったのでは当りません。間違いもないジ
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