ぞ、小半日鼻突き合わせていても、そうしたものの片鱗《へんりん》さえも感じはしないのです。私はまったくもう、あの二人に捉《とら》われ切っていました。
ともかく夏休みになったら、夏休みになったらと、半月後に来る夏休暇を、どのくらい待ち焦がれたか知れませんでしたが、困ったことに休暇に入る四、五日前から、身体の具合が思わしくなくて、到頭寝込んでしまいました。
以前に患った肋膜《ろくまく》の再発だと、医者はいうのですが、ただ再発だけなら、親もそれほどは驚かなかったかも知れません。が、左肺がかなり進行しているから、絶対安静にしろ! といわれて、レントゲンだ、ほら血沈だと、母なぞは今にも死ぬような心配をしているのです。
暑い間は、伊東の別荘で寝て暮すことにして、行くのにも自動車を徐行させて、牛の這《は》うようにノロノロと……車中で寝ていられるように、扇風機を取り付けたり、氷柱を入れさせたり、引っ繰り返るような騒ぎを演じているのです。その親心を、有難いと思わぬではありませんが、こんな病気くらい、一思いに九州へ飛んでいって、ジーナやスパセニアと馬の二、三回も走らせれば、スグ癒《なお》ってしまうのに
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