を惜しんでいたジーナの姿が、ありありとうかんできます。馬上に身を伏せて、必死に手綱を絞っているスパセニアの姿も、ありありとうかんでくるのです。しかもその時私は、この別れがこんな凄《すさ》まじい結果を齎《もたら》そうなどとは、夢にも思ってはいませんでした……。
八
東京へ帰ってからも、どんなにこの姉妹《きょうだい》の俤《おもかげ》が、眼の前に躍って離れなかったか知れません。うかうかと、大分遊び暮してしまいましたから、帰って来れば、スグ学校へ出なければなりませんし、友達からノートを借りて遅れていた講義の整理もしなければならず、一週間十日は、眼の回るような忙しさでした。
が、その忙しい間も、あるいは従妹《いとこ》たちが遊びに来て家中で食事している時も、一緒に笑いもすれば、また従妹が何か聞けば、受け答えもしていましたが、心の中では寸時も忘れずジーナとスパセニアの俤を偲《しの》んでいたのです。
父も母もハッキリと、口へ出したわけではありませんから、あるいはこれは私だけの思い過ごしかも知れませんけれど、父母は行く行くはこの従妹を、私と結婚させるつもりでいたのではないかと思われ
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