うにか最後の一日も、楽しく送ることができましたが、さてその翌《あく》る日|発《た》つ時には、父親は門口まで、そしてジーナとスパセニアは四里離れた大野木村のバスの乗り場まで、私を送って来てくれました。私にはイルシューという赤毛の一番|温和《おとな》しそうな馬を、スパセニアは例の白馬を、そしてジーナは栗毛のプルーストの鼻面《はなづら》を並べて……話といって何にもありません。来月夏の休みになったら、きっとスグいらしてねえ、とただそれだけのことを思い出したように、何度も何度もくり返しているだけです。随分長いのねえ、まだ今日から三十何日もあるわ! わたくし今日から一枚一枚、カレンダーに記《つ》けとくわ! とジーナが淋《さび》しそうにいうのです。いよいよ大野木の乗合《バス》の乗り場に着いてから小浜まで三里、麦畑と切り断ったような断崖《だんがい》の間を、乗合《バス》は走っているのです。二人が心を込めて作ってくれた弁当を持って乗り込むと、停留所の前に馬を停めて、ジーナは私の乗って来たイルシューの手綱を控えて手をふっています。側にはこの十二、三日の間に、すっかり馴染《なじみ》になったペリッチが畏《かしこ
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