でもかでも子供みたいにおせっかいを焼いて、つくづくひとり息子なぞに生まれるものではない! と、先《せん》から感じていたのです。
何の事件も起っていない今日までですらそれですから、九州のこうこういうところで知り合った混血児《あいのこ》の娘と、結婚したいなぞといい出したら、母なぞはびっくりして、眼を回してしまうかも知れません。その驚き顔が、今から眼の前に散らついてくるようです。しかし、どうしても結婚させてくれと私が頑張れば、結局は折れて私のいうことを容《い》れてくれるに違いありますまい。ただその承知させるまでが、大変です。
死ぬとか生きるとか、かなり狂言も、して見せなければなりますまい。そして結局は容れてくれるとしても、今私は大学の三年ですから、後《あと》一年たって卒業したら、期限つきで許してくれるかも知れません。それとも、もう二、三年たって、インターンも済んで、一人前の医者になるまで待て! といい出すものでしょうか? そんなことばっかり思いめぐらしながら、黙々として道を歩いていたような気がします。
そして、そんなことばっかり考えながら歩いている私にとって、やがて水門に佇《たたず》んで眼の前に展開されてきた、眼も遥《はる》かな混凝土《コンクリート》の溝渠《インクライン》は、興味でも何でもありませんでした……といいたいところですが、実際はこれもまた、大変な驚きだったのです。ジーナも恋も忘れて、私は眼をみはらずにはいられませんでした。なんというこれもまた、壮大きわまりない設備だったでしょう。なるほど二人の姉妹《きょうだい》が、私に見せたがったのも無理はありません。
これこそ父親が、大野木村にある開墾地へ水を送るため、すべての施設に先立ってまず第一に、手をつけたものに違いありません。これだけはもう立派に完成しているのです。
幅二間ばかり、側面が二尺ばかりも高く盛り上がった、厚い混凝土《コンクリート》の溝渠《インクライン》が、二十五度ぐらいの傾斜を帯びて、眼路《めじ》も遥かに霞《かす》んで、蜿蜒《えんえん》とうねうねとして、四里先の大野木村まで続いていると聞いては、ただその規模の雄大さに嘆声を発せずにはいられません。
さすがに子供の時から異郷に彷徨《さすら》って、自分を助けてくれた恩人を、国内一の銅山王に仕立て上げたような人は、すること為《な》すこと考えていることや
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