……そこんところは、ハッキリしませんです……」
 これが、故青年が神保町《じんぼうちょう》の通りで、ジーナの姿を発見して打ったという、例の電報のことであろう。もうその時は、ジーナが射殺せられた後であろうから、思いつめている青年から、ジーナが上京したかどうか? と、ジーナの安否ばかり尋ねた電報が来て、スパセニアは悲しんだのであろう。
 いよいよ話は、私の最も知りたいと思っていた、核心へ入ってくる。
「……お姉さんをお撃ちになった時のことは、みんなが知りたがっていますけれど、誰も見たものがないのですから、どうしてもハッキリしたことは、わかりませんです。
 お姉さんが一番最後に郵便局へいらしたのはいつ頃か? その点を聞きたいと父も私も二度ばかり、小浜《おばま》の警察へ呼ばれました。事件が起ったのは、四月の十四、五日頃から十六、七日くらいの間だろうと刑事さんもいっていられました」
「……何でも、事件の起る二日ぐらい前とかに、馬丁《べっとう》の福次郎さんという人が、用があって東水の尾へ、登って行きましたそうです。その時はまだお姉さんの方も、生きていらっしゃったそうですけれど……。
 家へ入ろうとしたら、ふだん仲のいい姉妹《きょうだい》が声高《こわだか》に諍《さか》いをしていられましたから、福次郎さんも躊躇《ちゅうちょ》して、しばらくそこに、立っていたのだそうです。お姉さんの声は、聞こえませんでしたけれど、
「わたしと貴方《あなた》と、どちらかがいなくなれば、スグ解決のつくことなんだわ。どうせわたしだって、もう、生きてようとも思わないけれど、死ぬ前に黒白《こくびゃく》だけは、つけたいわ。あの方の真意も知らずに、死ぬのは死んでも死に切れないわ」と、大変昂奮して妹さんの方が仰《おっ》しゃるのを聞いたとか、後で山田さんという刑事の方が、家へ見えられた時に話していられました。
 どうせまたあの大学生のことで、姉妹の間に諍いが起ったんだろうと、その時は福次郎さんも思っていたんだそうですけれど、そのほかには誰も山へ登ったものがありませんから、詳しい経緯《いきさつ》はどうしても、わかりませんそうです」
「……ハイ、山田刑事さんの仰しゃるのには、四月の十四、五日頃から十六、七日くらいの間に、お二人がお父様のお墓|詣《まい》りをしていられた時に、また諍いが起ってその時かっとして、妹さんがお姉さん
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