なりになって、あの方がたった一人であの山の中に住んでいらっしゃるんだと後で聞かされました。……お父様もお亡くなりになって、お姉さんもお亡くなりになって、たったお一人でどんなにお淋《さび》しいことかと、涙が流れるような気がしました。でも、外国の方というものは、どうしてそう気丈なのだろうかと思いました。ハイ……いくら、みんながそういっても、あの方がお姉さんを拳銃《ピストル》で撃って、湖へお運びになったとは……どうしても思われませんです。
 そんな恐ろしいことをなさるような方とは、どうしても思われませんです。警察の手で、みんなハッキリわかってるんだそうですけれど、それでも、今でもそう思えませんです。わたくしばかりではございません。村の人は今でもみんな、そういっております」
「……一番最後の時と仰しゃっても、その時がおしまいだとは知りませんでしたから、特別に覚えておりません。ただ、後から気が付いてみると、その時、何にも郵便はまいっておりませんと申上げましたら、特別に落胆《がっかり》なさって、随分じいっと考えていらっしゃったような気がいたします。そういえば、外へ出てからも、馬でお帰りになる時、何だかしおしおとなさって……。
 父が、お前、お嬢さんは、電柱の陰で泣いていらしたようじゃないか! と、いっていたような覚えがあります。後で、その馬も大きな犬も、帰りにみんな開拓地へお預けになって、四里もあるところを歩いてお帰りになって、その晩、湖の中へ身を投げておしまいになったと聞いて、お心の中がどんなだったろうかと……泣けて、泣けて、仕方がありませんでした。
 もうその時は、死ぬ覚悟をなすっていらしたんだなと思って……あんな可哀《かわい》そうなお嬢さんたちに、旨《うま》いことばかり並べ立てた、薄情な大学生が憎らしくて憎らしくて、早く死んじまえばいいと思って……ハイ、その人が亡くなったと仰しゃっても、ちっとも可哀そうだと思いませんです。いい気味だと思って……」
「……ハイ、そう仰しゃれば、今思い出しました。四月の中頃、東京から電報が来たことがございます。その時は、もうお姉さんはいらっしゃらなくて、妹さんが一人で通っていらっしゃる時でしたが、その電報をお渡ししましたら、大変悲しそうな顔をして、読んでらっしゃったことを覚えております。
 返電は確か、お打ちにならなかったように思いますけれど
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