じゃ、貴方《あなた》がたが御覧になった石橋さんという方の、欠点とでもいったようなものは……一口にいったら、どんなところでしょうか?」
「わし共、有難てえ方だと思ってやすで、別段欠点といったことも、気が付いたこたアねえでやすが……そうでやすな……」
 とあまり触れたがらぬ様子であった。
「……そうでやすな……欠点といえるかどうか、知らねえでやすが……あんまり長く外国にいらしたで……日本の事情に、通じてなさらねえてところで、やしょうかな? 日本は、旦那のいたとこと違《ちご》うて、コセコセした小さな国でがすで……」
 これで朧《おぼろ》げながら、石橋氏という人の輪郭が、飲み込めたような気がする。まだいろいろ話は出たが、これ以上くどくどと並べたてたところで仕様がない。
 水番の六蔵……山の農園の農夫が二人……馬丁《べっとう》の福次郎、いずれも石橋家が焼けた後は、山を降って一時ここで働いていた。が、石橋家没落後、水の尾村有となった柳沼の水番に雇われて、六蔵だけは、再び山へ戻ってここにいないという。農夫の一人はここで働いているが、一人は平戸へ引き揚げ、福次郎はやっぱり馬丁をすると、やがて伝手《つて》を求めて福岡へ出て行った。今も福岡にいると聞いている、ということであった。
 手紙類が留置《とめおき》になっていたという、村の郵便局へ、牧田助役とともに車を走らせる。村の中央、消防の火の見|櫓《やぐら》の傍《そば》にある、ほんの二、三人ぐらいで働く小さな郵便局である。
 五十|恰好《かっこう》の、白髪《しらが》の多い父親と、二十三、四のよく似た顔の娘が、働いていた。そうですね、私も知らぬことはありませんが、娘の方が詳しいですから、ちょっとお待ち下さい、今呼びますからと、座敷へ娘を呼んでくれた。
 引っ詰め髪に黒い上《うわ》っ張《ぱ》りを着けた、素朴な娘である。指の先を炭酸紙《カーボン》で青く染めている。ハキハキと答えてくれる。
「……ハイ、お二人ともようく存じております、評判のお嬢さんですから。……お綺麗《きれい》です。お綺麗ともお綺麗とも、お二人とも、眼の醒《さ》めるような方です。ジーナさんという姉さんの方は、いつも優しくにこにこと……妹さんのスパセニアさんという方は、キリッと口を結んで悧巧《りこう》そうな……負けず劣らずお美しくて……ハイ、どっちがどっちともいえませんでした。でも
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