茅《ちがや》なぞの胸まで掩《おお》うた細い山道にかかります。小暗い繁《しげ》みも抜けて、つづら折りの第一の山道にさしかかります。
この辺では、この山を矢上《やがみ》山と呼んでると、一人が教えてくれました。一里ばかりもその山を登ると、その奥がいくらかだらだら下りになって、道は山の中腹をいく曲りもいく曲りも……右手に深い谷を隔てて、層々として深い山脈《やまなみ》が走っています。渓谷を越えて、また二里ばかりの深い山道……いよいよ東水の尾へ抜ける最後の山の背梁《はいりょう》になりますが、足の弱い女連れ、殊《こと》に昨夜《ゆうべ》は疲れて薄暗い夕方のせいか、心気|朦朧《もうろう》として、随分手間取った道も今日は男ばかりの、しかも元気一杯に、朝の十一時頃にはもうその山の背梁も越え終って、いよいよ赤名山を左手に眺《なが》め始めました。
しかも、半信半疑で、今に現れるか、今にその辺の木陰から、二人が迎えに出るか? と胸を躍らせていたにもかかわらず、到頭どこにも姿は見当りません。してみると……してみると……やっぱり昨日の二人は……? と疑念が胸に忍び寄ってきた時分、
「旦那《だんな》様来やしたぜ、いよいよ来やしたぜ……昨夜《よんべ》お逢《あ》いになったのは、あの辺と違《ちげ》えやすかね?」
と石屋が寄って来たのです。
遥《はる》かの下方に見える※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》と栃《とち》の大木の、一際|蓊鬱《こんもり》した木陰、そこで道は二つに分れています。一つは東水の尾へ下って行く道……すなわち、私が昨日登って来て、その下の方で一休みしたところです。左手の草むら隠れの小径《こみち》は、あの二人が現れて来た道です。
「あの道でやしょう? 旦那様! 出て来たと仰《おっ》しゃるのは……?」
「そう……あの木の下あたりから……」
「間違《まちげ》えねえ、旦那様! 確かにお嬢さんの幽霊だ! ほら、早く来て御覧なせえ! ……そこを駈《か》け上ると、見えまさア! ずっと向うにお墓がある!」
急に勇み立った四、五人の後から、急いで小径を駈け上ってみると、なるほど、なるほど、見えます、見えます! 左手遥かに眼の下が開けて雑木林の陰になって、道はうねうねと夏草や熊笹隠れに、眼も遥かに下方へ下って、なんという素晴らしい眺《なが》めでしょう?
四周を紫色や濃紺の山々に画《かぎ
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