と、また車をもっての迎えであったから、もう具合は直ったのか? 少し早過ぎはしないのかな? と眉《まゆ》を顰《ひそ》めながらも、約に従って第二回の訪問をする。
「若旦那様、お薬の時間でございます」
 と、次の間から看護婦が薬の盆を捧げて来た。それを済ませて、仰臥《ぎょうが》しながら、病人はまたこないだの続きを話し出す。話の方によほど気が急《せ》くのであろう? どうも顔色が悪い、土気《つちけ》色をして、もうこれは生きてる人間の顔色ではない。それに息切れが眼立って酷《ひど》い。もうしばらく話をせずに、安静にしていた方がいいのではないか? と気になるが、病人の精神の安らぐ方が第一だから、余計なことはいわずに、またこないだのとおり耳を傾ける。
「こないだは、どこまで申上げましたでしょうか? ……幸い、四月からまた学校へ行くことができるようになりましたというところまで、お話したような気がします……」
 もうしばらくの間話をせずに、安静にしていた方がいいのではないか? とどうも気になって仕方ないが、仕方ない、耳を傾けることにする。そこで四日前の話の続き!
「……今度は、どうやら懸念していた梅雨時も無事に通り越すことができました。木《こ》の芽《め》時《どき》といって、私のようなからだには、入梅頃から新緑へかけての気候が一番いけないのですが、どうやらその時季も無事に通り越して、待ち切っていた夏休暇も迎えることができました。
 休暇に入ればもちろん、私にとっては九州が第一の問題です。が、去年も患い、今年もまた患ったこのからだでは、どんな理由をつけたからとて日帰りならともかく、一週間十日に亘《わた》る単独の旅行なぞに、父母が出してくれようはずがありません。何とか親をゴマカス旨《うま》い手段はないかと、伊東の別荘へ行けと勧める母の言葉を渋って、無理に東京で考えこんでいたのですが、偶然にも、父が休暇を取って、道後《どうご》の温泉へ行くことになったのです。道後ならお前のからだにもいいしということになって、二週間ばかりの予定で、父の供をして行くことになりました。どんなに私は、それを喜んだかわからないのです。
 父ならば母ほど喧《やかま》しいこともいいません。母はまるで十二、三の子供くらいにしか私を扱いませんが、父は、もう少しは私に理解も持ってくれれば、一人前の大学生としても扱ってくれます。母と離
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