考えられないことです。しかもいわんや、家を出る時すでに、秘蔵の名刀を携えている以上、何げなく談笑している肚《はら》の底では、両判事ともひそかに死に場所を、大村湾中の臼島と定めていたことは、もはや明白なる事実ではないかと、思われます。殺し合う意志がなく、何で二本の刀を、持ち出す必要がありましょう。
 ですから、ここに至ってはもはや、今日の文明や科学の力をもっては、到底解決のつくものではないのです。まことに非科学的な言い分ですが、祖先伝来の因縁とか、家を呪《のろ》っている怨霊《おんりょう》の一念とか……今の学問では割り切れぬ、何か理外の理といったようなもののために、ことここに至ったものであろうというほかには、何と解釈の下しようもないものであろうと、私は考えているのです。
 以上の理由が、私が幼年時代からの記憶を辿《たど》って、棚田判事に対する思い出を書き綴《つづ》ってきた次第に、ほかならないのです。今の世の中に、そんなバカなことが! とお笑いになることなく、私の意のあるところを諒解《りょうかい》して下さるならば、幸い、これに過ぎません。
 しかもいわんや、私のこの考えを裏書きするごとくに、
前へ 次へ
全52ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング