見つかったらしく「一時的の精神錯乱か?」という冒頭の下に、この船頭の話が載っているのです。
「十八日の夕方、わしが網を繕《つくろ》っているところへ、お二人でおいでになって、確かにわしが、乗せてお渡ししたに違いありません。臼島まで、往き帰り六十二円のお約束でした。わしが漕《こ》いで、お二人とも別段、舟の中では不愉快らしい様子はちっともなく、煙草《たばこ》を吸ったり、笑ったりしていられました。
 島へ着いたのは、五時半ぐらいだったんでしょう。今夜はこのまま帰って、明日の朝八時頃、迎えに来てくれということで、旦那《だんな》様大丈夫ですか? と申しましたところ、島のてっぺんには、弁天様のお堂があるし、大の男が二人、こういうものを持っていれば、何の怖いこともないじゃないかと、笑っておいでになりました。島へ渡るお客さんの中には、月のいい晩なぞ、一晩お泊りになるお方もありますので、わしも別段不思議とも思わず、その晩はそのまま帰って、翌《あく》る日の朝八時頃、お迎えに行きました。が、そこらに姿が見当らず、てっぺんの弁天様の祠《ほこら》でも、見当らねえので、わしの迎えに行くのが遅くなったので、ほかの舟で
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