と、事件の真相を知るの難きを、嘆じているのですが、越えてさらに二日、年の瀬を慌ただしさを加えた十二月二十八日の追報記事に至っては、読者の好奇心に訴えつつも、さらでだに迎春の準備に忙しい人々を、いよいよ茫然《ぼうぜん》底なき沼にさまよわしめるの観があります。
「東京高裁木俣長官談。棚田判事の事件は、検察当局でも取調べを急いでいるであろうが、今もって原因の推測が皆目つかぬには、困っている。棚田判事は、宿痾《しゅくあ》の療養のため、一昨年十一月休職、故郷の大村市に引き籠《こも》って、静養に努めていた。来月の十一日で、休職満期となるが、健康状態も至極良好なので、復職することとなり、その打合せかたがた、見舞を兼ねて特に今度、井沢民事部長に行ってもらった次第だ。
 両判事とも、資性《しせい》温厚、学者肌の人で、確執や怨恨《えんこん》関係なぞの、あるべきはずがない。部内でも、平素最も親密な同僚関係だけに、この事件だけは、何が何やらサッパリわからず、まったく夢のような気持だ。今電話があったところだが、中田最高裁長官も驚いていられる」
 もう一つは、臼島へ渡る当日、判事たちが乗った舟の船頭の話が、
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