ます。
新聞記事を直接引用したついでに、もう少し、伝えられた当時の全貌を、書き添えてみるならば、二十六日にも各紙はさらに「謎《なぞ》の決闘事件詳報」として、事件の詳報に努めています。
「棚田、井沢両判事の不思議なる決闘事件を取り調べている長崎地検大村支部でも、調査の進行につれて、事件の核心と目すべきものがなく、捜査も目下、五里霧中を彷徨しているようである。十八日家出の当日まで、両判事とも、極めて和気|藹々《あいあい》として、殊《こと》に棚田判事は親友井沢判事の来訪を喜んで、病後にもかかわらず、珍しく酒盃を手にして、親しげに語り合い、井沢判事の来訪以来、同家に滞留三日間、決闘の原因と目すべきものの見当らぬのには、夫人を始め係官一同、困惑し切っている。
因《ちな》みに、棚田判事は、趣味の方面においては特異なる作曲をもって聞こえ、都内有数の、刑事訴訟法の権威である。温厚なる井沢判事は、三年来、東京高裁民事部長の職にある人、棚田判事は今回の司法部内の異動に伴うて、法務省矯正局長の後任に擬せられていた。
いずれにせよ、謎《なぞ》の事件として、当局の深い疑惑と絶望の淵《ふち》に投げ込んでいる
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