、社会的立場も異なって、その後|逢《あ》ったことがありませんから、頓《とん》とその意味はわからないのです。そこへ持って来て、昨年十二月二十四日の新聞記事だったのですが、それをいうためにはまずその記事の全文を掲げておいた方がいいのではないか、と考えています。
五 謎の決闘
旧臘《きゅうろう》二十四日、全国各新聞は一斉に、社会面二段三段を抜いて――中には、四段五段を割いたものもあって、
「凄惨《せいさん》! 東京高裁棚田判事、同僚井沢判事と決闘す。長崎県大村市、孤島の大惨事」
という冒頭の下に、前代未聞の不思議な事件を、報道しているのです。
「大村市から一眸《いちぼう》のうちに見晴らせる、風光明媚《ふうこうめいび》な湾内に、臼島《うすじま》という周囲五キロに満たぬ、無人の小島がある。全島足の踏み込み場もないまでに、背丈くらいの松が密生して、擂鉢《すりばち》を伏せたような恰好《かっこう》のいい小島は、市人から親しまれ、絶好のピクニック場と、目されている。
底が透かし見られるくらい、澄み渡った波を、小舟で乗り切って、およそ、十五、六分くらいの距離であろうか。本月二十二日の
前へ
次へ
全52ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング