だったのでしょう。が、子供にとって事実の真相なぞはどうでもよろしいことだったのです。皺《しわ》だらけの白髪の祖母が思い入れよろしくあって……こう細い手を伸ばして責め折檻《せっかん》する時の顔の怖さといったらありません。叫ばんばかりの気持で、私は祖母の袂《たもと》を掴《つか》んでいましたが、ともかくその何代目かの主人の勘気に触れて、美しい腰元は責め殺されてしまいました。しかも責め殺したことが世間へ洩《も》れるのを憚って、家老は女の実家から何度問い合せがあるにもかかわらず、どうしても事の真相を明かしません。お家の法度《はっと》を破って男を拵《こしら》えて、逐電《ちくでん》した不届き至極な奴め、眼に入り次第成敗いたしてくれん! と猛《たけ》りたつようなことばかり並べたてて、表面を繕《つくろ》っていました。武家には頭の上がらぬ昔のこと、娘のそういう不都合な所為のあるはずもない、これには何か深い事情があることと思っても、並ぶものない権力者の御家老に向って、そういうことの面と言えるはずもなし、女の家では泣き寝入りをしてしまいましたが、どうしても[#「どうしても」は底本では「とうしても」]諦《あきら
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