出るんだよ、と何度やかましく注意されたかわからないのです。祖母の言うのには、棚田の何代目かの先祖に――確か四代目とかいったようでしたが、癇癖《かんぺき》の強い、とても残忍な性質の家老があって、人を殺すことなぞ、虫ケラ一匹ひねり潰《つぶ》すほどにも感じてはいなかったというのです。奥方は早くに亡くなって、お気に入りの美しい腰元が身の回りの面倒を見ていましたが、この腰元さえも、自分のいうことを聞かないといって、責めて責め抜いた挙句の果てに、手討ちにしてしまったというのです。
今でも私が覚えているのは祖母の話を聞きながら、どうしても子供の私の腑《ふ》に落ちなかったのは、なぜこの腰元を手討ちにしてしまったかということでした。高が自分の言うことを聞かないくらいのことで殺してしまわなくてもいいじゃないか! と不満に思わずにはいられなかったのでしたが、大人になるに従って祖母が細かく説明し得なかった、その辺の事情も、ハハア、なるほどな! と飲み込めるようになってきました。幼い私に聞かせるのは憚《はばか》って、祖母が言葉を濁していた、そのお手討ちというのも横恋慕を聞かれなかった家老の嫉妬《しっと》心から
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