利加《アメリカ》人でも、仏蘭西人、和蘭《オランダ》人……西洋人のことごとくが、ほとほと当惑した時に、顔中をしかめて投げ出すような調子で、呟《つぶや》く苦笑の言葉だったのです。今も先生が突然世界共通のこの苦笑を洩《も》らして、起《た》ち上がられると、譜本を鷲掴《わしづか》みにしながら、身体を揺すぶって、顔中をしかめていられるのです。
「コレハ大変ナ曲デス……コノ作者ハモノニ憑《つ》カレテイマス。恐ロシイ曲デス……ワタクシ、コンナ曲ヲ弾イタコトガナイ……土井サン、コノ作者ハドウイウ人デスカ?」
「本名は棚田といって……棚田晃一郎という判事です。現職の……」
「オウ、判事! 現職ノ……! 判事サンナラワタクシヲ縛《しば》ルカモ知レマセン。ワタクシカマイマセン……恐ロシイ曲デス。……コノ人憑カレテイマス……人間ノ作ッタ曲デナイ……コノ人モウ長クハ生キナイデショウ……」
そして私の方へ柔和な老眼をじいっと向けられました。
「アナタ聞キタイ? コノ曲ヲ?」
「先生が御迷惑でなかったら……」
「カマイマセン、アナタガ聞キタケレバ……よろしい《シェーン》! 弾キマショウ、恐ロシイ曲デス」
そして先
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