なんだ間数もたった十ぐらいかと思われるかも知れません。私はただ外から覗いただけですが、それでもおそらく十七、八間ぐらいはあるのではなかろうかと想像しました。ですから私の想像したところは点線で現しておきましたが、ともかく、一藩の家老の邸《やしき》ですから、昔はもっと広かったのを方々取り毀《こわ》したのかも知れません。私の絵図はなってませんが、台所でも座敷でも天井が高く長押《なげし》は大きくいずれも時代の煤《すす》を帯びて十畳ぐらいの広さはありそうに思われました。おまけに背後の杉の森が天日を遮《さえぎ》って真っ暗に被《かぶ》さってその陰惨なこと――前に私は家屋全体が陰気な暗さを漂わせていると言いましたが、陰気というよりも陰惨といった方が、むしろ適当だったかも知れません。これほどまでに陰惨な家というものを、まだ私は見たことがないのです。祖母の妖怪話が頭に沁《し》みついているせいか、どこかで啾々《しゅうしゅう》として鬼が哭《な》いているといったような、屋の棟三寸下るといったような、古めかしい形容詞でも使いたくなるくらいの薄気味悪さを感ぜずにはいられなかったのです。
家の回りを歩いて、私が※[
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