ということだったのです。ですから留守を預かる爺《じい》さんもいつ主人が帰ってもいいように年中掃除だけは怠りなくしていると言うのでした。
「いいよ、いいよ、開けてくれなくても……別段用があるわけではないのだから……スグに帰るんだから」
 が、どうせ風を入れるために毎日一度は開けるのだからと、爺さんは一間一間雨戸を繰っています。靴も脱がずに外から覗《のぞ》き込むのでしたが、あたりの森閑とした静けさといい、古びた昔の匂《にお》いといいいかにも昔祖母の語った怪奇な話が思い出されて、何か鳥毛だつような気持を感ぜずにはいられませんでした。昔の家というものは構えが大きくて、木口ががっしりと作られている代り、無頓着《むとんちゃく》な採光や通風のせいか、言い知れぬ暗さが漂っているもんだなと思いました。眺《なが》めたところを大体見取図に描いて見せましょう。この友達がどんなに淋《さび》しいところを好んでいたかということが、読者にもお飲み込みになれるでしょうから。
[#棚田氏の屋敷の見取図(fig50077_01.png)入る]
 私の見取図で御覧になっても、読者には別に陰気さがお感じになれぬかも知れません。
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