と女中と小作人夫婦がいるだけだということでした。慣れているとみえて、晃一郎君は別段淋しそうな様子もしていないのです。
 どうせ暇で遊んでいましたから、私も晃一郎君の話相手を勤めて、幼い日を送った思い出の土地のことなぞを何くれとなく語り合ってみましたが、今でも私の記憶に残っているのは、晃一郎君自ら自分の家に絡まる、昔からの妙な伝説に触れた時のことでした。
「どういうのか僕の家には、昔から色んなうわさが伝わっていましてね、あすこの家は一代に変死人が必ず一人は出るとか、幽霊が出るとか」
 と、慨嘆的な幾分|嘲《あざけ》るような調子でした。もちろん私たちは大村土着の人間ではありませんし、まさかそんなうわさ話なぞは知らないと思ったのでしょう。が、さりとて別段それ以上のこまかしいことを言い出すでもなく、何かのはずみから、ただ青年らしい若々しい慨嘆口調で言い出したに過ぎないのです。
「でもオヤジだって、そんな妙な死に方なんぞしてやしませんし……ですからそんなバカバカしいうわさよりも、今でも僕にわからないのは……」と言おうか言うまいかという風に青年は考え深い眼をしました。
「姉の死んだことなのです」

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