は堪《たま》らなくなって祖母の袂《たもと》の中へ顔を突っ込む。
「ハハハハハハいいんだよ、いいんだよ、もう話はおしまいだよ。
お前があんなところへ行きさえしなければ、そんなに怖いものは出て来ないのだよ」
と祖母は私の頭を撫《な》でて、怖い話を止めにするのでしたが、全身真っ黒に焼け切ってから、歩き出して、ボロボロの灰になった男というのは、何もあながち、棚田の仕置き場の僧侶に限った話ではありません。後年、私が読んだ講談本にも、豊臣秀吉の家来で、泉州堺の町を焼き払った何とかいう豪気な侍が、火焙《ひあぶ》りの刑に処せられた後、眼も鼻も口もない真っ黒けな焼死体になってから歩き出して、倒れたら粉々の灰になったということが出ていたような気がします。こういう怪奇な伝説に、奇怪な物語はつきものかもしれませんが、しかし別段祖母がウソ飾りをつけ加えているらしくもないのです。
いずれにせよ、私が祖母から聞かされて怖がっていた、四、五十年以前のあの上小路あたりの淋《さび》しい景色を思い出しますと、祖母の話してるのは、いわんや、それからさらに百年も二百年も昔のことであってみれば、昼間でも狐《きつね》の啼《な
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