敷もあたりを圧して宏壮《こうそう》を極め、昼でも暗い鬱蒼《うっそう》たる竹藪《たけやぶ》に沿うて石礫《いしころ》だらけの坂道を登って行くと、石垣を畳んだ大きな土手の上には黄楊《つげ》の垣根が竹藪と並行に小一町ばかりも続いているのです。そして広々とした石段の向うに、どっしりした冠木門《かぶきもん》がそびえています。苔《こけ》の生えた御影石《みかげいし》の敷き石の両側に恰好《かっこう》のいいどうだんを植えて、式台のついた古風な武家づくりの玄関といい、横手に据えられた天水桶《てんすいおけ》代りの青銅の鉢といい、見上げるような屋の棟や、その甍《いらか》の上に蔽《おお》いかぶさった深い杉の森といい、昔|裃《かみしも》を着けた御先祖が奥方や腰元や若党たちに見送られて供回り美々《びび》しく登城する姿なぞもそぞろに偲《しの》ばれましたが、それだけに腰元もいなければ供回り若党も一切なく、母親と女中と下男《げなん》夫婦と、いつ行って見てもひっそりと静まり返っている小人数の棚田家というものは、何か大家の没落したような一種の侘《わび》しさを子供にも伝えずにはいませんでした。
しかも淋《さび》しい感じを与えた
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