棚田裁判長の怪死
橘外男

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)田圃《たんぼ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)昔|裃《かみしも》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#ローマ数字2、1−13−22]
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      一 家老屋敷

 その不可解な死を遂げた判事の棚田晃一郎氏だけは子供の時分からよく知っています。私とは七つ八つくらいも年が違っていたかも知れませんから、学校や遊び友達が一緒だったというのではありませんが、棚田の家は広い田圃《たんぼ》を距《へだ》てて私の家とちょうど向合いになっていました。私の父はその頃この小さな町の農事試験場の技師をして、官舎に住んでいましたが、田圃を距てた埃《ほこり》っぽい昔の街道の向う側に城のように巍然《ぎぜん》たる石垣や土手をつらねているのが棚田の家だったのです。
 もともと棚田の家は、この町の旧藩の城代家老《じょうだいがろう》の家柄といわれているだけに、手狭な私の家とは違って敷地も広ければ、屋
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