来るでなあ!」
「お内儀《かみ》さん! 大丈夫だぞう! 妹さんは助かったぞう! 気をしっかり持ちなせえよう! 大丈夫だからしっかりしなせえよう!」
 喧騒の中からは、口々に勢いをつけている声が入り乱れて耳を打ってきた。そして佇《たたず》んでいた女たちが堪《たま》らなくなったのであろう。ワッと泣き出す声や啜《すす》り上げる声が、一時にそこここから湧き起ってきた。
 そして私が歯の根も合わぬくらいガタガタと胴震いしながら、搬び出される蒲団の後についてまた表へ飛び出した時には、もう廻りにいた人たちが、やっとのことで躍《おど》り蒐《かか》って蒲団蒸しにして三人の火を揉み消したところと見えた。ジリジリと皮膚の焦げる何とも言えぬ異様な腥《なまぐさ》さがプウンと鼻を衝《つ》いて、人垣と人垣の間や往来に散らばった土嚢《どのう》のような蒲団の隙間から、ガヤガヤと黒い影が大声に罵《ののし》り合っていた。
 それでもやっと助かったなと人事ならず私も吻《ほっ》としたが、ちょうどその時であった。ギャッ! と悲鳴ともつかず絶叫ともつかぬ異様な叫びが挙がると同時に、提灯《ちょうちん》の光が慌《あわただ》しく飛び退《
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