の上を今、こけつ転《まろ》びつ、小山の陰になって、見えつ隠れつ、全身|生《いき》不動のように紅蓮《ぐれん》の焔を上げた三人の男女が、追いつ逐《お》われつ狂気のようになって、走り狂っているのであった。
そして廻りを囲んだ人々は、火を揉《も》み消そうとして、家から担《かつ》いできた蒲団を往来に投げ出すやら、座蒲団を持ってこの三人を追い駈けるやら、必死になって口々に何か呶鳴《どな》り合っているところであった。
しかも焔に包まれた三人が雪崩《なだれ》を打って転がり込んで来る向う側の店々では、家に火の付くのを恐れて慌《あわ》てて戸を閉め出すやら、未だかつて私は、生れてこれほどの凄《すさま》じい光景を見たことがなかった。夜眼《よめ》にも仄《ほの》白い雪の街路を転がり廻っているこの紅蓮の焔の周囲を遠巻きにして、黒い人影は右往左往にただ混乱し切っていた。
幸いに、私の佇《たたず》んでいたところからは家数にして五、六軒ばかりも離れていたから、こちら側へ転がって来る危険はなかったが、私の側に震えている女たちは、生きた心地もなく身|悶《もだ》えしながら、
「早く、どうにかして! あ、早く消して上げて!
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