太郎とは、さっき女中の焚《た》き付けて行ったストーヴにどんどん薪を抛《ほう》り込みながら、炬燵《こたつ》の上で熱いやつを酌《く》み交していたが、もう十日の余もこうして場所を換えては飲み汽車の中では飲みして酒に爛《ただ》れ切った喉には今更変った話があるというでもなければ酒の味が旨いというのでもなく、いい加減に切り上げて、各々床に潜《もぐ》り込んでしまった。そしてさあ、時間にしてどのくらいも経った頃であったろうか。

      二

 ふと私は、ただならぬ表の騒がしさに夢を破られて、がばと跳ね起きた。沈々と更け行く凍《い》てついた雪の街上を駈け抜ける人の跫音《あしおと》、金切り声で泣き叫ぶ声、戸外からは容易ならぬ気色《けしき》を伝えてくる。
 てっきり火事だと私は直観した。子供の時分から、火事と聞くと一応飛び出して検分してこぬことには、どうしても気の納まらぬ性分であった。いわんや、こんな知った人もない一小|都邑《とゆう》! 風はないようであったが、旨く行って町中総|舐《な》めの大火にでもなってくれれば有難いぞと念じながら、私は丹前の上にしっかりと帯を締め直していると、眠っているとばかり思
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