間合間に耳を澄ませると、表はまだざわめいて、階下《した》でも起きて話しているらしく、まだみんな異常な出来事の昂奮から落ちつきを取り戻していないらしい様子であった。
 そしてやっと酒の仕度を整えて来た女中は、真っ青な動悸《どうき》の静まらぬ顔をして、
「とんだお騒がせをしましてん」
 と自分が粗相でもしでかしたかのように、謝った。

      四

 この女中に聞くと、怪我人たちはすぐ側の池田病院とかいうのへ運ばれて行ったが、三人とも全身焼け爛《ただ》れてとうてい命は取り留め得なかろうということであった。
 発音の聞きとりにくいこの地方の浜言葉であったから、明瞭にはわからなかったが、すぐ七、八軒先の向い側の小さな時計屋の亭主とお内儀さんと亭主の妹との三人で、夜業《よなべ》をやっていながらふとした粗相で傍に置いてあった揮発《きはつ》の大罐に火が移って、三人とも頭からその爆発を浴びてしまったというのであった。亭主がお内儀さんの火を揉み消そうとせず、お内儀さんが亭主の妹の火を消そうともせずまた妹が兄の火を揉み消そうと苛《あせ》らないで三人とも、それぞれに自分たちの身体についている火さえ消そう
前へ 次へ
全18ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
橘 外男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング