の出来事を凝視《みつめ》ているような心地がしたのであった。そんな思いを胸一杯にたぎらせながら、私はそこに茫然《ぼうぜん》と突っ立っていた。
「もう運ばれて行ってしまったわ。さあ、はいりましょうよ。ね」
 と、不仕合せな人たちの方へしゃがんで掌を合せていた君太郎に促されて、私もようやく座敷へ戻って来たが、酷寒北海道の真夜中はおそらく零度を五、六度くらいは下っていたろうと思われる。
 今までは気もつかなかったが、部屋へ戻って来ると一時に寒さが身に徹《こた》えてきてブルブルと胴震いがして、急には口もきけなかった。しかも口がきけなかったばかりか、もう眼が冴えて、床へ潜り込んでもなかなか眠れるものではなかった。ただ眼先にちらついてくるのは、たった今のあのフラフラと立ち上った時の顔も頭も区別のつかないノッペラボウなお内儀さんの姿ばかりであった。
「……どうしても眠れないわ。ちょいと! 起きて下さらない? ね、起きてお酒でも飲んで話してましょうよ」
 と、これもいったん床へはいった君太郎がムックリ起き上ったのを機会《しお》に、私も蒲団を離れてしまった。
 ごうごうと音だてて燃え盛っているストーヴの合
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