めが聴診器を当てながら聞くから、
「葛根湯です。先生! あの煎《せん》じ薬の葛根湯です。あれを飲ませましたら」
 と私が土瓶を見せると、
「葛根湯では中毒を起すわけもないが」
 と医者は小首《こくび》を傾《かし》げた。そして、
「ほほう、西洋人でもああいう物を飲むんですかね」
 と頻《しき》りに感心した。
「別段熱もありませんね」
 と医者は脇の下から体温計を抜き取った。
「どうも、私の見たところでは中毒らしい症状も見えませんがね」
「しかし先生、不思議です、たった今計った時には三十九度からあったんですが」
「三十九度あっても、どうも私の体温計では熱が上がってきませんがね」
 と医者が不興気《ふきょうげ》な顔をした。
「その悪漢めが俺に毒《ポイズン》を飲ませたのだ! 人が厭《いや》だと言うのに、無理に毒を飲ませてしまったのだ! あ、手が麻痺《しび》れる[#「麻痺《しび》れる」は底本では「痳痺《しび》れる」]」
「何と言っていられるのです? 大分昂奮していられるようですが」
 と医者が尋ねた。
「手が麻痺《しび》れると[#「麻痺《しび》れると」は底本では「痳痺《しび》れると」]言ってるん
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