可愛い山
石川欣一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)可愛《かわい》い
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)神経衰弱的|厭世観《えんせいかん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いやみ[#「いやみ」に傍点]
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岩と土とからなる非情の山に、憎いとか可愛《かわい》いとかいう人間の情をかけるのは、いささか変であるが、私は可愛くてならぬ山を一つもっている。もう十数年間、可愛い、可愛いと思っているのだから、男女の間ならばとっくに心中しているか、夫婦になっているかであろう。いつも登りたいと思いながら、まだその機会を得ぬ。今年の秋あたりには、あるいは行くことが出来るかも知れぬ。もっとも山には、登って見て初めて好きになるのと、麓から見た方がいいのとある。私が可愛いと思っている山も、登って見たら存外いやになるかも知れぬ。登って見て、詰らなかったら、下りて来て麓から見ればよい。
この山、その名を雨飾山《あまかざりやま》といい、標高一九六三米。信州の北境、北小谷《きたおたり》、中土《なかつち》の両村が越後の根知村《ねちむら》
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