リンネの上の小さな岩塊を廻り、斜上気味に狭い棚を行くと、水の滴《したた》っている比較的大きなリンネへ達する。本沢のリンネはすぐ横に見下せるが、ちょっと落込んでいて手強《てごわ》そうなので、すぐとそのリンネにルートをとる事にする。
 そのリンネはかなり急であるが、手懸《てがかり》の多いガッチリとした岩なので、緊張しながらも愉快にはかどる。やがて右の岸壁に入っている急な棚状の箇所を行きつめると、リンネは一枚岩の岩壁で囲まれて、三、四十米の外の開いた悪いチムニー状の所となる。中頃までチムニー登り[#「チムニー登り」に傍点]によって登り、それからは狭い裂け目について僅かな手懸りを求めて行く。裂け目の最上部はオーバーハングであり、二番目の者が確保する所もよくないので、水で濡《ぬ》れたその箇所を左上へと切抜ける時には、かなり激しい緊張を余儀なくされた。
 ようやく無事にこの難場をおえ、少し上の小さい緩傾斜の台地に落着くとすぐに食事にする。霧は相変らず辺りをかすめて巻上り、目近かに見える烏帽子《えぼし》型の岩峰や、尾根尾根に並び立つ尖峰を薄くぼかして、奇異な景観を造る。足下には霧のうすれた間から燻《
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