くす》んだ雪渓がぼんやりとその姿を現す。
意外に時間を喰いそうなので、そこに心ばかりの積石を積むと、すぐに動き始める。それからは暫く、草付の混った岩場を右上へと縫うように登って行く。やがて小さな岩塊を右に廻って上に出て見ると、赤黒い大きな胸壁が行手を遮《さえぎ》っているのに面した。前面及び左右ともに直立しており下から見ると、ほとんど取付く事も出来ないように思えたが、近付いて見ると尾根の行き尽した正面の右に入っている一本のリンネが、唯一の可能なルートを示している。尾根は両側のリンネへ急角度を以て落込んでいるからどうしてもそれにルートを取らなければならないと思った。胸壁の下に来て見ると、そのリンネは深く十米ほどのチムニーをなしているらしく、その入口まで尾根の行き尽した所から横に深い裂け目が走っている事を知って喜んだ。先ず裂け目の安全な手がかりに頼って、ほとんど足場のない一枚岩を膝の磨擦で助けながら、十米ばかりトラヴァースし、チムニーの中に身体を押込む。チムニーの入口はやっと二人入れ得るほどなので、二番目の者がその足場に立つと、すぐに自分はチムニー登り[#「チムニー登り」に傍点]でもって登
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